東京高等裁判所 昭和34年(ナ)6号 判決 1959年9月30日
原告 関山健造
被告 新潟県選挙管理委員会
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「昭和三四年四月二三日執行の新潟県議会議員一般選挙における東蒲原郡選挙区を無効とする。右選挙につき被告が昭和三四年七月二三日にした昭和三四年決第一号決定は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。
一、原告は、昭和三四年四月二三日執行の新潟県議会議員一般選挙における東蒲原郡選挙区の選挙人である。
二、原告は、昭和三四年五月三日、本件選挙は選挙の規定に違反し、かつ選挙の結果に異動を及ぼす虞があるから無効であるとして、被告に対し異議の申立をしたところ、被告は、同年七月二四日付で右異議の申立を棄却する旨の決定をし、その決定書は同年七月二十五日原告に送達された。
三、本件選挙は、無効である。その理由は、次のとおりである。
(一) 原告は、昭和三四年四月九日、訴外平田八次を本件選挙における候補者として、法定の手続により、その推薦の届出をしたところ、右届出は受理された。
(二) ところが、右平田八次は、原告に無断で本件選挙における候補者たることを辞退した。そのため、平田八次は東蒲原郡選挙区の候補者名簿から削除された。
(三) しかしながら、立候補の辞退は届出人みずから文書をもつて選挙長に対してすべきものであり、かつ推薦届出の場合においては、推薦者と候補者の連名をもつて辞退届を提出しなければ、その届出は効力を有しない。立候補辞退の場合においては、供託物を没収される等の不利益を被る慮があるからである。
(四) したがつて、原告が何ら書面をもつて平田八次の立候補辞退の届出をしたことのない本件選挙は、選挙の規定に違反し、かつ選挙の結果に影響を及ぼす慮があるから、無効である。
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、原告がその主張のように本件選挙における選挙人であること、原告が昭和三四年五月三日本件選挙が無効であるとして被告に対し異議の申立をし、被告が同年七月二三日付で右申立を棄却する旨の決定をし、同年七月二五日その決定書を原告に送達したこと、ならびに原告が昭和三四年四月九日訴外平田八次を本件選挙における候補者としてその推薦届出をしたところ、右届出が受理されたこと、および平田八次が候補者たることを辞退し、その結果同人が候補者名簿から削除されたことは、いづれも認める。
二 平田八次が候補者名簿から削除されたのは、同人が昭和三四年四月一四日選挙長に対し、健康がすぐれないことを理由に、昭和二五年総理府令第一二号公職選挙法施行規則別記第二三号様式による新潟県議会議員一般選挙候補者辞退届を提出したので、選挙長がこれを審査のうえ適法に受理し、法定の手続により処理したからである。したがつて、平田八次を候補者から除外して本件選挙を執行したことは適法である。
三、なお、立候補の辞退は、本人届出の場合であると推薦届出の場合であるとを問わず、いずれも候補者本人のみがすることができるのであつて(公職選挙法第八六条、同法施行令第八九条、前記規則第一二条参照)、推薦届出の場合であるからといつて、推薦者と候補者とが連名をもつて辞退届を提出すべき旨の規定は現行法令上全くない。
四、したがつて、平田八次を候補者名簿から削除して執行した本件選挙は何ら選挙の規定に違反するものではないから、原告の主張は理由がない。
理由
原告が本件選挙における選挙人であること、原告がその主張のように異議の申立をし、その主張の日に右申立を棄却する旨の決定書の送達を受けたこと、ならびに原告が訴外平田八次を本件選挙における候補者として推薦届出したところ右届出が受理されたこと、および平田八次が候補者たることを辞退した結果候補者名簿から削除されたことは、いずれも当事者間に争がない。
原告は、候補者たることを辞するには、推薦届出の場合においては、推薦者と候補者とが連名をもつて辞退届を提出しなければ辞退することができない旨主張する。
しかしながら、公職選挙法第八六条第七項の規定によれば、公職の候補者は選挙の期日の前日までに選挙長に届出をしてその候補者たることを辞することができるが、右法文からして明かなように候補者たることを辞することができるのは候補者本人のみであつて、推薦届出の場合においても、推薦届出者はその権限はないこと明である。また、推薦届出の場合であるからといつて、候補者たることを辞するには推薦者と候補者とが連名をもつて辞退届をなすべき旨の規定もない。けだし候補者として公職に就くかどうかは専ら本人の意思により決定せしめるべき問題であるからである。したがつて、原告の右主張は理由がない。
してみれば、平田八次を候補者名簿から削除して執行した本件選挙は何ら選挙の規定に違反するものではないから、原告の本訴訟請求は失当として棄却すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田良正)